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2009 年06 月14 日

自治体の債権管理の現状とその課題〜公共政策学会

 ロースクール教授になってから少しは教授らしいこともしなければ、と思っていたところに、日本公共政策学会での討論者として出席するようにとの連絡を受けた。それで、今日は、龍谷大学で開催された日本公共政策学会の「自治体の債権管理の現状とその課題」というテーマセッションに出席した。
 債権管理条例をめぐる現状と課題がそのテーマだった。
 私の感じている自治体債権の現状と課題は以下の通りだ。

 自治体では地方税の滞納処分の例によることのできる債権であっても、手続の進め方が分からず有効に滞納処分を行うことができずに回収できなかったり、あるいは法定納期限が過ぎたのでいきなり滞納処分をしたところそれに不服の市民が滞納処分は信用にかかわるから滞納処分をする前に電話をするなり自宅訪問をしてくれと言ったところ、自治体職員がそんなことをしていたら財産隠しを誘発するおそれがあるし職員の負担が大変だといって応じなかったりしている現状がある。

 それ以外の自治体債権の滞納だけが問題ではない。滞納処分の例による債権もそれ以外の債権についても、自治体と市民との信頼関係がないから市民が支払を放置しているのが現状だ。どんな企業でも売上だけ計上して売掛金の回収をしない企業はないから、自治体でも債権回収部門をまず充実させることが重要だ。

 ところで、今日の報告を聞く限り、債権管理条例の最大の効用は、未収債権の放棄を容易にすることにあり(その意味で、債権管理条例ではなく債権放棄条例である。)、自治体の債権管理の実効性を高めるところにあるわけではないようだ。

 現在、税金をはじめとする多額の自治体債権が未収・滞納となっているが、その回収の実効性を高める第一の方策は、債権管理体制を自治体が自庁内に構築することだ。セッション終了後に聞いたところでは、自治体は債権回収をするためにサービサーに安易に頼る傾向があるらしいが、はたしてそれで良いのか。
(続く)

 昔は、市税を滞納する人がいたときは、電話督促し、戸別訪問し、その人がどうして、どの範囲の支払ができずにいるかをよく聞き、その人が再生する方策を一緒になって探求し、それができないときにはじめて滞納処分をしたものだ。そのような人間関係、地域の信頼関係があってはじめて自治体債権の回収がある。それは債権回収という名の地域再生事業なのだ。それを忘れて、単に早く未収債権を処理して滞納状況を消化することに目的が行っているようでは不良債権にあえぐサラ金や金融機関と同じではないか。

 私は給食費の滞納も、地域の人間関係の崩壊に原因があると思っている。だから、都市部では人間関係が疎遠になっているから給食費の滞納も多いが、地方では、良いか悪いかは別として、濃密な人間関係、区(自治会)・組を単位としたインフォーマルな行政組織が機能していて税金の取立も区で行っていたから、地方では給食費の滞納はないと思っていた。しかし、最近では地方部でも個人情報保護法の悪影響で地域が崩壊して、給食費の滞納は都市部だからとか地方だからという差はなくいずれも多額の滞納があるらしい。

 そうした中、給食費をはじめとする自治体債権の回収をどうするか。要は、債権放棄に頼らず、さりとて滞納処分にも頼らず、任意に回収できる法制度をどう構築するか。外国では債権回収のために一時抑留という荒手の手法もあるようだが、日本的には氏名公表や行政サービスの停止が実際に法制度化されている。しかし、私はいずれも賛成ではない。自治体に対する支払をしないから行政サービスを停止するというのなら、逆に、行政が公租公課の無駄使いや自分の支持しない政策を行うのであれば、住民としては公租公課の支払を拒絶する権利を認めてくれという話になってしまうからだ。やはり、地域の信頼関係をどう再構築するか、支払いたくなるような状況=「やさしく、あたたかい地域」をどう作るかであろう。それこそが公共政策学会のめざすところではなかったか。(こんな討論をしたかったのだが、セッションが終了してからようやく債権管理の現状と課題の認識ができた次第であった。)

投稿者:ゆかわat 22 :53| ビジネス | コメント(1 )

◆この記事へのコメント:

◆コメント

私債権は「時効の援用」がないと消滅(放棄)できないから、これを
『徴収吏員さんも「消滅(放棄)しやすくする条例を制定する」という伏線もある』
という事なのかな?これじゃ国○局みたいに事務的じゃん

投稿者: かなめ : at 2009 /06 /19 18 :01

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